私は、忘れなきゃいけないから

低い声で名前を呼ばれると、もう振り向かないって決めたはずなのに振り向いてしまいます。

甘い声で、私の名前を呼ばないで。

さみしそうに、呟かないで。

彼が嫌いなわけではないんです。

ただ、みんなに優しい彼と一緒にいるのがすごく辛いだけなんです。

だから、彼が私なことを愛してくれていることも、私が本当は口にできないくらい彼を愛していることも、理解はしているんです。

でも私は最低の女だから、嫉妬せずにはいられないのです。

彼がほかの女の子の名前を口にするたびドキッとして、ほかの女の子に手を差し伸べる度に少し焦ってしまって。

なんて心が狭いんだろうって思って、もしこのままだったらきっと、今なら隠せている黒い気持ちが、溢れ出てきそうで。

だけどその気持ちはきっと彼を苦しめるだけで、もしかしたら彼が私を嫌いになるかもしれない。

だから、絶対に分かれると決めました。

こんな気持ちは認めてもらえないのかもしれないけど、きれいなままでいたいんです。

私は振り返りません。

優しい彼がどんな顔をしているのか、私は想像できます。

それでもなお、振り返りませんでした。

振ったのは私の筈なのに、こんなに悲しいのはなぜなのでしょう。

自分でも、後悔しているのかどうなのか、よく分かりません。